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世界のアニメーションの最前線「アニメーションのためのAI」ディスカッション


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世界のアニメーション作品が集まるアヌシーでもAIは昨年から引き続き議論を巻き起こしており、最新の業界ニュースはその火に油を注ぐばかりです。昨年実施されたアニメーション監督たちとの対話に続き、本セッション「AI for Animation?」では世界のアニメーションスタジオに焦点を当てています。彼らはどのように適応しているのでしょうか?


プロフェッショナルなアニメーションパイプラインにおけるAIの使用、内部でのテストから実社会での導入まで、ワークフローがどのように進化し、どのような新しい課題が生まれ、AIが実際にどのような問題を解決するのに役立つのかを探る議論です。実験、適応、時には抵抗している人々からの洞察を交えた、地に足のついた議論が行われました。


講演録:AIとスタジオの未来 — 適応、挑戦、そして創造性の再定義

イベント: アヌシー国際アニメーション映画祭 MIFAカンファレンス


イベント会場 2025年6月11日(水) 13:30から14:30まで


講演概要: AIは議論を巻き起こし続けており、最新の業界ニュースはその火に油を注ぐばかりです。昨年の監督たちとの対話に続き、このセッションではスタジオに焦点を当てます:彼らはどのように適応しているのでしょうか?社内でのテストから現場での本格的な統合まで、ワークフローがどのように進化し、どのような新たな課題が生まれ、AIが実際にどのような問題を解決するのに役立つのかを探ります。実験し、適応し、時には抵抗する人々からの洞察に基づいた、地に足の着いた議論を展開します。


登壇者:


  • ティエリー・パルマン (Thierry Paalman) 氏


  • Head of technology, SUBMARINE ANIMATION B.V.


  • アルヴィッド・タッパート (Arvid Tappert) 氏


  • Senior Director, ASTERIA FILM CO


  • クエンティン・オージェ (Quentin Auger) 氏


  • Co-founder & Head of Innovation, DADA! ANIMATION


  • ニコラ・デュフレーヌ (Nicolas Dufresne) 氏


  • Author, director, educator, and independent developer, RxLaboratorio


モデレーター Flavio Perez(フラビオ・ペレス) R&Dテクニカルディレクター LES FÉES SPÉCIALES



はじめに

【司会:フラヴィオ・ペレス氏】


皆さん、こんにちは。本日はお集まりいただきありがとうございます。AIは、どのような角度から見ても主要なトピックです。本セッションでは、公式概要で示されたテーマに基づき、スタジオがこの変革にどう適応しているのか、現場の視点から深く掘り下げていきたいと思います。


まず、Submarineスタジオのティエリー・パルマンさんです。2006年から同社を率い、テクノロジーを駆使して最高のプロジェクトを生み出してこられました。


次に、アルヴィッド・タッパートさん。業界で25年の経験を持つベテランですが、そうは見えませんね。現在はAsteria Filmsで、アニメーターを力づけるハイブリッドおよびAI拡張ワークフローの最前線を切り拓いています。ご自身の短編アニメシリーズ『The Odd Bird Show』では、AIを代替品ではなく「クリエイティブな相棒」として活用できることを証明しています。



そして、ニコラ・デュフレーヌさん。多くの方がご存知の、アニメーション界における稀有で価値あるビジョンを体現する方です。彼はフリーソフトウェア、知識共有、社会的価値にコミットする開発者アーティストであり、業界を変えたオープンソースのパペットツール「Duik」の制作者です。最近では、ご自身のポッドキャストでAIに関する哲学的考察を発信されています。


最後に、DADA! Animationの共同設立者であり、イノベーション戦略を率いるクエンティン・オージェさんです。彼は大学や企業と共にシンクタンク「Creative Machines」を立ち上げ、専門家や学生を集めてAIワークフローをテストし、課題を議論する場を提供しています。


ではティエリーさん、Submarineでは「AI」が流行する以前から、どのようにテクノロジーを活用されてきたのでしょうか。


ディスカッション

【ティエリー・パルマン氏】

私たちの仕事は、常に予算内で最高の制作価値を引き出すことです。そのために、昔からテクノロジーは積極的に活用してきました。「AI」という言葉が一般的になるずっと前から、私たちはAIに類する技術を使っていました。例えば『サンドマン』の中の「千匹の猫の夢」というエピソードでは、アートディレクターが描いた大きな油絵を最終的なアニメーションに合成する必要がありました。その際、デプスパス(深度情報を持つ画像)を生成するツールを構築し、それを使って空気感のある霧を加えたり、動きの奥行きを表現したりしました。


ですから、現在私たちがAIと呼んでいるものの多くは、ここ数年で自然に流れ込んできた技術の延長線上にあると考えています。もちろん、まだ不器用でランダムな部分も多いですが。


【アルヴィッド・タッパート氏】

私自身も、AI以前から多くの技術をビジュアル制作と融合させてきました。ですから、私にとってAIの登場は、創造性の爆発のようなものでした。古い技術とAIを組み合わせることで、自分の作品をコントロールし続けながら、全く新しいワークフローを試すことができるようになったのです。実験の幅が広がり、純粋に制作がもっと楽しくなりました。


例えば、自作の3Dモデルや手描きのスタイルを、スタイル変換などを使って新たな表現に昇華させることができます。単に制作をスピードアップさせるだけでなく、2年前には不可能だった方法で、自分のスタイルを拡張したり、新しい表現を見つけたりできるのです。Blenderでは表現が難しい髪の毛やフェルトの質感を、AIを使えばよりリアルに見せることも可能です。また、手描きのドローイングに粘土のようなテクスチャーを与える、といった実験も行っています。私にとって、これは非常にエキサイティングなことです。


【ニコラ・デュフレーヌ氏】

(司会からの「哲学的視点が欠けているか」という問いに対して)


はい、もちろんそう思います。でなければ、2年もかけてポッドキャストを制作したりはしません。私たちは、AIという特定のトピックについてだけでなく、自分たちの働き方そのものについて、一度立ち止まって考える必要があると思うのです。哲学や内省には時間がかかります。AIが「時間の節約」をもたらすと同時に、私たちから「考える時間」を奪っているという側面は皮肉なことです。スタジオでは、日々の業務に追われ、自分たちのやっていることを哲学的に考える人はいません。私はポッドキャストを通じて、AIについて考えるためのいくつかの鍵を提供しようと試みています。何かを教えるというよりは、私が2年間考えてきた思考のプロセスを共有しているのです。


【クエンティン・オージェ氏】

私も、巨大企業が発信する情報に振り回される「奴隷」になるのではなく、自分たちで考える時間を持ちたいと考えました。そこで、私たちの分野に議題を持ち込み、アーティスト、経済学者、人文科学の研究者、マネージャーといった多様な人々が集合的に思考するための場を設けたのです。それがシンクタンク「Creative Machines」です。一人で考えるよりも、多くの人が集まった方が、より賢明に思考を深めることができます。この取り組みは歓迎されていると感じます。


【司会:フラヴィオ・ペレス氏】

アルヴィッドさん、あなたのプロジェクト『The Odd Bird Show』について、映像を見ながら詳しくお聞かせいただけますか?どのような経緯でこの手法を選んだのでしょう。


【アルヴィッド・タッパート氏】

はい、これは大人向けの番組で、奇妙な鳥たちが登場します。2年半前に、自分のドローイングを学習させ、自分のスタイルで鳥のキャラクターを生成する研究開発から始めました。AIのおかげで、以前は不可能だった「素早い失敗」が可能になったのです。アイデアを試し、アニメーションとして動かし、それから本格的な制作に入る。このサイクルが非常に重要です。


具体的なフローとしては、まず主要キャラクターを手描きし、スタイル変換をかけ、3Dでモデリングします。そして、その3Dモデルのレンダリング画像を、新たなキャラクターを生成するための学習データとして使います。これにより、様々なシーン設定で無限のキャラクターの可能性を試すことができます。また、VRのラグドール物理演算を使って素早くアニメーションをつけたり、役者の表情をフェイストラッキングして、リップシンク付きのアニメーションライブラリを構築したりもしました。


このように、伝統的なツールとAIを組み合わせ、最初から最後まで完全にコントロールを保っています。レンダリングに時間がかかるようなフワフワした質感のスタイルでも、AIを使えば非常に素早く実験と反復ができます。現在はソーシャルメディア向けの短編を公開していますが、22分の長編パイロット版も制作中です。このスピーディーなプロセスのおかげで、世の中で何か起きたら、4日後には関連クリップを公開することも可能です。


【司会:フラヴィオ・ペレス氏】

ティエリーさん、あなたのスタジオではAIをどのように捉えていますか?


【ティエリー・パルマン氏】

まず明確にしたいのは、AIは「家族の写真をジブリ風にする」ためだけのものではない、ということです。私たちは非二次創作的な、独自の作品を作りたいのです。Submarineでは、伝統的なワークフローを維持しつつ、AIをアーティストの時間や可能性を「強化する」ために利用しています。


例えば、2D画像から安定したデプスパスを生成する技術。これにより、以前は3Dでしか不可能だった合成手法が2Dでも利用可能になります。また、ライブアクション映像や3Dの骨格(アーマチュア)から、ノンフォトリアリスティックなレンダリングを生成することもできます。重要なのは、これをそのまま使うのではなく、自分自身のスタイルを学習させたモデルで実行することです。


こうした技術の登場により、私たちはスタジオとしての価値を再定義しなくてはなりません。誰もが映像を生成できる時代に、私たちの作品を際立たせるものは何か。それはスピードやコストではなく、私たちが語るべき物語であり、独自のクールなスタイルなのです。私たちは、ヨーロッパ市場で「最速・最安」を目指したことは一度もありません。


【ニコラ・デュフレーヌ氏】

ティエリーさんの話は、職人技の感覚、つまり「フロー」状態に入ることと関連していると思います。私自身も多くの自動化ツールを開発してきましたが、タイミング、ドローイング、ライティングといった創造性の核となる部分は、決して自動化しようとは思いません。


問題は、クライアントやプロデューサーがそのプロセスを見ないことです。彼らは、ライブアクション映像にスタイル変換をかけたものを「アニメーション」と見なし、なぜ1週間もかかるのかと問い詰めるかもしれません。フリーランスや個人のデザイナーにとっては死活問題です。だからこそ、業界全体を俯瞰する哲学的視点が必要なのです。


【クエンティン・オージェ氏】

私たちが開催したアニメーションジャム(短期集中制作会)でも、同様のことが明らかになりました。VFXスタジオなどでAIを専門に扱うプロは素晴らしい作品を作りましたが、AIに初めて触れるアーティストの多くは、機械にコントロールされている感覚に陥り、満足のいくものは作れませんでした。面白い映画が生まれたのは、AIが生み出すランダムな「ゴミ」の中から、人間が創造性を発揮して全く新しい物語を再構成した場合だけでした。これは「誰でも素晴らしいものが作れる」というマーケティング文句が、いかに現実と異なるかを示しています。


【司会:フラヴィオ・ペレス氏】アーティストがAIの使用を秘密にする傾向についてはいかがですか?

【ニコラ・デュフレーヌ氏】


「AI」という言葉が曖昧すぎることが一因です。「交通機関」と言うのと同じで、船なのか、自転車なのか、具体的に話さなければなりません。「セグメンテーションモデル」や「スタイル変換」といったように具体的に話すことで、病名が分かった時のように恐怖は和らぎます。


【アルヴィッド・タッパート氏】


私も数年前はソーシャルメディアへの投稿をためらいました。しかし、自分の作品を使い、倫理的にAIを活用する方法を示すことで、批判どころか多くの肯定的なコメントをもらいました。アーティストは恐れずに、倫理的なAIの活用法があることを発信し、若い世代をインスパイアしていくべきです。


【ニコラ・デュフレーヌ氏】


そして、これは個人の問題ではなく、社会やコミュニティの問題です。AI開発者の不透明性といった問題もあり、私たちは規制を必要としています。AIを恐れる人も、利用する人も、規制を求めているのです。それを望まないのは、不透明なビジネスで利益を得る巨大企業だけです。


【司会:フラヴィオ・ペレス氏】アルヴィッドさんが関わっているAsteriaでは、倫理的なAIモデルを開発していると聞きました。

【アルヴィッド・タッパート氏】


はい。Asteriaは、著作権フリーで、すべてライセンス料を支払い、倫理的に収集されたデータセットのみで学習させたモデルを開発しています。大手企業は「インターネット全体をスクレイピングしなければ良いモデルは作れない」と言いますが、それが間違いであることを証明しつつあります。このモデルは数週間以内に公開され、誰もが試せるようになります。自分の素材を統合することも可能です。誰もが正当な対価を得る、それが本来あるべき姿です。


【クエンティン・オージェ氏】


ヨーロッパにも同様の例はあります。フランスのPlayasは、完全に著作権フリーのデータセットで学習させたLLMを公開しています。スペインのストックフォト企業Freepikも、自社のデータのみで学習させた画像モデルを開発しています。こうした倫理的かつ、個人のPCでも動作する小規模で環境負荷の低いモデルが今後のトレンドになるでしょう。データブローカーからの需要も、ここ一ヶ月で「大量のデータ」から「高品質でキュレーションされた少量のデータ」へと劇的に変化しています。


【司会:フラヴィオ・ペレス氏】


非常に重要なトピックとして、次世代のアーティスト育成についてお聞きします。ジュニアのキャリアはどうなるのでしょうか?


【ティエリー・パルマン氏】


私たちは、伝統的なキャリアパスを引き続き支援しなくてはなりません。デッサンのような基礎が重要であることは変わりません。ジュニアをプロジェクトに参加させ、彼らが学ぶ機会を確保する方法を見つけることが、私たちのAIポリシーにも含まれています。


【クエンティン・オージェ氏】


ある社会学者の研究によると、AIの利用には2つの態度があるそうです。


1.スキルを失う態度:面倒な作業をAIに任せることで、自分のスキルを練習する機会を失う。


2.スキルを高める態度:AIを制約のない「クレイジーな同僚」として扱い、新しいアイデアのきっかけをもらう。


後者の使い方をすれば、人はより成長できます。


【ニコラ・デュフレーヌ氏】


シニアアーティストなら、自分がどちらの態度でAIを使っているか内省できます。しかし、初心者にはその区別が難しい。私が15年前にコーディングを学んだ時、コードだけでなく数学や論理など、その周辺にある多くのことを学びました。AIでコーディングすると、その周辺領域を学ぶ「セレンディピティ(偶然の発見)」が失われます。AIで得た時間を、別の何かを学ぶために使うなら良いのですが、より多くの仕事をこなすようプレッシャーをかけられれば、ただ消耗するだけです。これが、私がAI全般に対して抱いている懸念です。


【司会:フラヴィオ・ペレス氏】


しかし、もはやパンドラの箱は開かれています。使わなければ競争力を失うのでは?


【ニコラ・デュフレーヌ氏】


まさしく、だからこそこれは個人の問題ではないのです。労働者が力を持たず、恐怖を感じている。力を取り戻す唯一の方法は、規制を設け、集合的に考え、行動することです。


質疑応答

【会場からの質問】


アニメーションの本質について哲学的な質問です。私にとってアニメーションとは、1フレームが文字で、1つの動きが言葉、1ショットが文章のようなものです。AIの発展を見ていると、そのフレーム単位の意図が失われていくように感じます。アニメーションは何か別のものに変わってしまうのでしょうか?


【アルヴィッド・タッパート氏】


いいえ、ビジョンは依然としてあなたの中に必要です。AIは、あなたが心に描いたフレームに到達するための、あくまで一つの「方法」にすぎません。例えば「50フレーム目で目を開く」といったコントロールは、今後も重要であり続けます。フレームごとのアニメーションがなくなることはないでしょう。


【ニコラ・デュフレーヌ氏】


AIは既存のものを置き換えるのではなく、新しい表現方法として共存していくでしょう。全ての技術は常に使われ続けます。今は移行期だからこそ、恐怖を感じるのです。伝統的なアニメーションを愛する人がいる一方で、AIで新しい芸術を生み出す人も現れるでしょう。哲学的な視点では両者は共存できます。もちろん、経済的な視点では議論の余地がありますが。


【司会:フラヴィオ・ペレス氏】


ありがとうございました。残念ながらお時間です。素晴らしいご回答、そして活発な議論に感謝いたします。登壇者の皆様に大きな拍手をお願いします。


レポートを終えて

非常に示唆に富んだ話で、フランスおよび欧米圏のアニメーションにおけるAI使用やその倫理観は大変進んでいるという理解ができました。セレンディピティ、クラフトマンシップ、特に「目標に到達する時間が短すぎてセレンディピティ(不要なものからの発見)」の機会が失われているという話は「なるほどなあ」、と思いました。この知見を日本でも生かしていきたいところです。


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Originally published at note.com/aicu on June 15, 2025.

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