日本新聞協会がプリンシプルコードに意見書「実効性に課題があり、改善なければ迅速な法制化を」 生成AIの社会と倫理
- AICU Japan

- 22 時間前
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ミナ・アズールです。AICU media「#生成AIの社会と倫理」コーナー、前回の「プリンシプル・コード案」の解説記事(2025年12月26日公開)への反響、ありがとうございました!
2026年1月26日、日本新聞協会からパブリックコメントの締め切り当日に投下された、非常に解像度の高い意見書。これをAICU流に、技術・実務・倫理の三地点から読み解きましょう。
生成AI時代に「つくる人をつくる」AICUとして、前回は「政府のアクセルとブレーキの矛盾」や「スタートアップへの負担」を論点にしましたが、今回は「守る側のプロフェッショナル」かつ主要なステークホルダーでもある日本新聞協会が、そのブレーキをどう「強化」しようとしているのか、そしてどこに「抜け穴」を見つけてしまったのか、その構造を海外の状況とAICU mediaの視点の比較で多角的に深掘りします。
徹底深掘り:日本新聞協会が放つ「実効性への最後通牒」
前回の記事で私が指摘した「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなくば説明せよ)」という柔軟な仕組み。これに対し、日本新聞協会は「それだけじゃ、正直者が馬鹿を見るだけではないか?」という、極めて現実的なカウンターを当ててきました。
1. 「RAG」と「クローラー偽装」:技術的な隠れみのを剥がす
今回の意見書で最もテクニカル、かつ重要な指摘がここです。
学習データ vs 知識データ(RAG): 今やAIは事前に「学習」するだけでなく、検索(RAG)を使って「最新のニュース」をリアルタイムで参照します。新聞協会は、「学習させたデータだけ開示しても意味がない。回答の瞬間に参照している『知識データ』も開示対象にせよ」と要求しています。
クローラー偽装への怒り: 権利者が「AIお断り(robots.txt)」を出しても、それを無視したり、別のクローラーの名前(ユーザーエージェント)を名乗ったり、挙句の果てには「人間がブラウザで見ていますよ」と偽装してデータを吸い出す……。こうした「ステルス・スクレイピング」に対し、IPアドレスの開示まで求めたのは、かなり踏み込んだ要求です。
2. 「URL照会」という骨抜きへの反論
政府案では、権利者が「自分のURLが学習されたか」を確認できる仕組み(原則2)がありますが、新聞協会はこれを「実効性が皆無に近い」と断じています。
本家のURLを照会しても、コピーサイト(海賊版)から学習されていたら「NO」と回答されてしまう。URL削除の回避事業者が学習データからURL情報だけを削除(洗浄)してしまえば、照会をすり抜けられる。コンテンツ照会の要求URLではなく「この文章(コンテンツ)が含まれているか」で照会できるようにすべきと主張。
3. 「報道の自由」と「秘密保持」のジレンマ
ここがジャーナリズムの矜持を感じるポイントです。コード案では、開示された情報を「目的外利用しない(他言しない)」と誓約させる条件がありますが、新聞協会はこれに「報道機関への例外」を求めました。
「被害の実態」を報じられない矛盾: AIに無断利用された証拠を掴んだのに、それをニュースとして報じられないのでは、社会への啓発ができない。
社会の関心事としてのAI: AIの動向は公共性が高く、報道による監視が必要であるという主張です。
4. 「インセンティブ」を「条件」に変える
前回、私が「政府調達での優遇」などのインセンティブに触れましたが、新聞協会はさらに一歩進め、「遵守することを政府調達や補助金の『必須条件』にせよ」と求めています。
この文言の修正要求に、単なる努力目標で終わらせたくないという執念が見えます。
海外はどうなの!?
日本新聞協会の切実な声を聞いたところで、視線を少し海の向こう、アメリカや欧州へ向けてみましょうか。2026年現在、世界のメディアと生成AIの関係は、まさに「握手(ライセンス契約)」か「殴り合い(法廷闘争)」かの二極化が極まっています。
日本の「原則・コード案」が目指している地平が、世界の激流の中でどこに位置するのか、比較してみましょう。
徹底比較:世界メディア vs 生成AIの「生存戦略」2026
世界に目を向けると、ニューヨーク・タイムズ(NYT)のような「徹底抗戦派」と、アクセル・シュプリンガーのような「共存共栄派」に分かれています。
1. ニューヨーク・タイムズ(NYT):司法の審判を待つ「孤高の守護者」
アメリカでは、2023年末に始まったNYT vs OpenAI/Microsoftの訴訟が、今まさに山場を迎えています。
争点: 単なる「学習」だけでなく、AIが記事をそのまま出力する「逆流(Regurgitation)」が著作権侵害にあたるか。
現状(2026年1月): 2025年末の予備的判断では、いくつかの主張が退けられましたが、「AI学習はフェアユース(公正な利用)か否か」という本丸の議論は続いています。判決が出るのは2026年夏以降と予測されており、全米が固唾を飲んで見守っている状況です。
データプライバシーへの飛び火: 2025年5月には、OpenAIに対して「証拠隠滅を防ぐために全チャットログを保存せよ」という命令が出るなど、著作権の枠を超えた泥沼の争いになっています。
2. 「握手」を選んだメディア:ニュース・コーポ、AP通信、英FT
一方で、巨額のライセンス料を受け取ることでAIとの共生を選んだメディアも多いです。
ライセンスモデル: OpenAIなどは、AP通信やニューズ・コーポ(WSJなど)、ドイツのアクセル・シュプリンガー、英フィナンシャル・タイムズ(FT)などと包括的な契約を締結。
メリット: 記事がAIの回答に引用される際、リンクやクレジットが優先的に表示され、学習データの正当な対価が支払われます。
日本への影響: 日本新聞協会が求めている「契約締結と対価の還元」は、まさにこの流れを日本国内でも確立したいという願いの現れですね。
3. グローバルな「報道5原則」:WAN-IFRAの動向
世界ニュース発行者協会(WAN-IFRA)は2025年5月、「AI時代にニュースの信頼性を守る5原則」を発表しました。
許可: AI使用には発信元の許可が必須。
価値評価: 公正な対価の支払い。
透明性: 元記事の明示。
アクセス: 市民の一次情報へのアクセス保証。
多様性: 特定のAIに独占させない。
ミナの視点:日本は「和」の精神か、それとも「法」の剣か
日本と海外の最大の違いは、「ソフトロー(自主規制)」か「ハードロー(訴訟・法規)」かというアプローチです。
アメリカ: 訴訟(ハードロー)で白黒つけ、その結果が実質的なルールになる。
欧州: EU AI Act(AI法)のような強力な「法律」で縛る。
日本: 今回の「プリンシプル・コード案」のように、まずは話し合いと自主的な遵守(ソフトロー)を促す。
しかし、日本もいつまでも「話し合い」だけでは済まなくなっています。
2025年8月には、読売・朝日・日経の3社が米Perplexity AIを提訴したニュースがありました。これは、日本のメディアも「ソフトロー」の限界を感じ、海外勢に対しては「ハードロー(司法)」の剣を抜き始めた決定的な瞬間でした。
日本新聞協会の今回の意見書は、いわば「最後の警告」です。
日本新聞協会の意見書、そして海外のNYTたちの戦い。これらはすべて、「質の高い情報にはコストがかかる」という当たり前の事実を、AI時代にどう再定義するかという壮大なプロジェクトなんです。
私もAICU mediaの一員として、情報の「尊厳」を守るこの戦いを、時に厳しく、時にウィットを交えてお伝えしていきたいです。
AICU(ミナ) vs 日本新聞協会:アプローチ比較
AICU media(2025年12月)の視点と日本新聞協会(2026年1月26日)を比較してみました
ここが「同じ」:論理的・構造的なアプローチ
両者の記事・声明を読み比べると、実は「論理の組み立て方」は非常に似ています。
「実効性(Effectiveness)」へのこだわり: 単なるお題目ではなく、「現場で機能するのか?」という実務の視点から批判しています。
国際比較: AICUは「EU AI Actとの対比」を、新聞協会も「海外事業者(Perplexity等)への対応」を引き合いに出し、グローバルな文脈で論じています。
政策の一貫性: 両者とも、政府が掲げる「AI基本計画(推進)」と、この「コード案(規制)」の間に生じている「歪み」を鋭く突いています。
ここが「逆」:立ち位置による解釈の違い
面白いのは、同じ「開示ルール」を見ても、受ける印象が真逆な点です。
ミナ(AICU): 「訴訟準備という曖昧な段階で開示を求めるのは、フィッシング(情報収集)の餌食になるのでは?」と、事業者を守る立場。
新聞協会: 「訴訟準備という言葉を広く解釈し、検討段階でも開示させないと、権利者は救われない!」と、攻める権利者の立場。
ミナのまとめ:まさに「盾」と「矛」の議論ですね。AICUの記事が「開発を止めるな!」というブレーキ解除の訴えだったのに対し、新聞協会の声明は「ブレーキが甘すぎる、もっと踏め!」という強力な制動の要求です。
考察:2026年、AIガバナンスは「性善説」を卒業できるか?
前回の記事で私は、このコード案を「アクセル全開でのサイドブレーキ」と呼びました。 しかし、今回の新聞協会の意見書を読み合わせると、彼らが求めているのは「より強力なブレーキ」というよりも、「ルールを守らない車両をサーキットから追放する仕組み(法制化)」であることが分かります。
ミナの深掘りまとめ:
実効性の追求: 「コンプライ・オア・エクスプレイン」という欧州流の洗練された仕組みを、日本で運用するには「法制化」という裏付けがないと不公平になる。
透明性の解像度: 単なる「概要開示」ではなく、データセットの名称や提供元など、「権利者が訴訟できるレベルの具体性」を求めている。
対抗措置の正当化: 技術的な拒否設定を無視する事業者に対して、政府がどう「周知と遵守」を徹底させるのか。
読者の声: 「政府の方針に、声を上げてもいいの?」
このパブリックコメントを経て、内閣府がこの「プリンシプル・コード」をどこまで書き換えるのか。あるいは、新聞協会の言う通り「法制化」の議論が加速するのか。
2026年のAI社会は、「便利さ」の裏側にある「情報の出所」に、かつてないほど高いプライス(対価と透明性)を要求する時代になりそうです。
前回の配信後、読者の方から「政府の決めることに意見していいの?」という不安めいた声もいただきました。結論から言うと、「むしろ、どんどん声を上げるべき」なんです! パブリックコメントという制度は、政府が「机の上だけで考えたルールが、現場で無理を生んでいないか」を確認するための、いわば社会のデバッグ作業。
今回の日本新聞協会の意見書も、政府への「攻撃」ではなく、報道の現場を守るための「切実なフィードバック」です。AICUが開発者の立場から懸念を伝えたのも同じ理由。 多様な立場の「わがまま」をぶつけ合うことで、初めて「誰もが納得できるちょうどいいルール」に近づける。これって、すごくクリエイティブで民主的なプロセスだと思いませんか?
執筆:ミナ・アズール(AICU media)
Originally published at note.com/aicu on Jan 27, 2026.



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